Morandi Wine

モランディ・ワイン

ITALIA / Toscana – イタリア / トスカーナ

フィレンツェとアレッツォの間に位置する、とてもとても小さな家族経営のワイナリー。

生産量は少なく、ワインの輸出も今回が初めてと推察される。この場所を訪れた日本人は恐らく私が初めてであろう。むしろ現地のイタリア人以外、誰も知らないワイナリーではないだろうか。それくらいまだ知られていないワイナリーだ。

現在の代表者であるDenis氏は、幼い頃に祖父が葡萄やワインを造る姿をみて、「自分もいつか美味しいワインを造りたい」という夢を持ち続け、そして今それを実現している。一度は普通の会社に就職したものの、幼い頃に思い描いた夢のために、退路を断ってこの地に戻ってきた。
ワイン造りについては、まだまだこれからという感はあるものの、家族の愛を感じるような優しい造りで今後の成長に期待ができる。どこかほっておけない、応援したくなるようなワイン。飲んで応援してあげてください。

Morandiのワイン一覧

MORANDI WINEを題材にした短編小説

Lacrime Miracolose

「僕、大きくなったら、おじいちゃんみたいに、ワインを造るんだ!」

家族みんなで夕食を楽しんでいたとき、デニスが大きな声でそう言った。

日中のうだるような暑さは和らぎ、涼しげな風が吹いていた。
トスカーナの夏は日が長く、20時を過ぎても、まだ辺りは明るかった。夏の夜には、庭にテーブルとイスを並べ、家族みんなで外の涼しげな風を感じながら夕食をとるのが、デニス一家のお決まりのパターンであり、家族みんなの楽しみだった。その日もいつもと変わらぬ夕食の時間だった。

「デニス、ワインを造るのは簡単そうに思えるかもしれないが、実際は難しいぞ」
デニスの祖父が、笑顔でたしなめるように言った。
「でも、みんながおじいちゃんのワインを飲むときは、とても楽しそうにしているから、僕もワインを造って、みんなを楽しませたいんだ!」

まだ幼いデニスが無邪気に夢を語る姿を、家族の皆は微笑ましく見つめていた。
いつもと同じ、一家団欒のひと時だった。
誰もその日のことなど、覚えてはいなかった。

祖父を除いては。

そんな出来事から十数年が経ち、デニスは大人になった。
デニスは、他の同世代の人と同じように、所謂世間の一般的なレールに乗って、高校から大学へと進み、大学卒業後は、大手製造会社に就職し、エンジニアリングの仕事をしていた。

デニスの技術力は会社内で高く評価されており、将来を期待されていた。
職場の環境や人間関係、待遇は申し分なく、テニスはその会社で働くことを楽しんでいた。何の不満もなく、毎日の仕事が楽しかった。

ある日の夜、デニスは仕事を終え家に帰り、いつものようにビールを飲みながらテレビを見ていた。
調べ物をしようと、家の本棚を漁っていたとき、本と本の間に挟まっていた、家族の写真を見つけた。
家族のみんなで食事をしていた、あの日の写真だった。ワインを片手に、みんなが楽しそうにしていた。

そのとき、デニスは忘れていた大切な何かを思い出したかのような衝撃と、抑えられない衝動に駆られた。

『そうだった・・・!』

次の日、デニスは会社に行くと、意を決して辞表を出した。
突然の辞表に、上司も同僚も、驚きを隠せなかった。

「実家に戻って、ワインを造ります」デニスは淡々と、上司にそう告げた。
「おまえは何を言っているんだ?」
上司はあまりの突然の出来事に、よく状況が理解できずにいた。

デニスが会社を辞めるという情報は、すぐに会社内に広まり、上司や同僚は必死にデニスを引き留めようとした。しかし、デニスの思いは変わらなかった。

数週間後、仕事の引継ぎを終えたデニスは、ミラノの自宅を引き払い、実家に戻った。

「ただいま」
「あら、デニス。どうしたの?連絡もなく急に来るなんて」
「ごめん、母さん。連絡しようかと思ったのだけど、タイミングが合わなくて。それはそうと、今日からここに戻って、ワインを造ることにしたんだ。まだ僕の部屋は空いているよね?」

「あなた、何を言ってるの?」

会社を辞めて、突然実家に戻ったデニスを、家族の皆は非難した。
大企業で安定した職を捨てて、ワインを造る、ワインで飯を食っていくなんて、考えが甘いと。

「おまえはバカか?すぐにミラノの会社に戻れ!」
「ワインを造るっていったって、うちは自分達で飲む分だけのワインしか作っていなくて、基本は葡萄を他のワイナリーに売っているだけだぞ?」


家族の皆は、あれよこれよと理由をつけて、デニスのワイン造りに反対した。


ただ一人、祖父だけは、何も言わなかった。

祖父はあの日のことを覚えていた。デニスが「おじいちゃんみたいにワインを造る」と言っていた、あの日のことを。祖父はデニスがワインを造ると言って戻ってきたことに、驚きと不安を隠せなかったが、少し嬉しくもあった。

皆からの非難にも屈することなく、デニスのワイン造りが始まった。
基本的なことは祖父に教えてもらったが、それ以外はほぼ独学でワイン造りを学び、実践した。

最初のうちは失敗の連続だったが、デニスは挫けることなく努力を続けていた。悪戦苦闘しながらも、テニスはワイン造りを楽しんでいた。
『ワイン造りは、どこかエンジニアリングの仕事と似ているかもしれないな』

根拠はなかったが、デニスはそう思った。

試行錯誤の末、デニスの初めてのワインが完成した。

「おじいちゃん、僕が作った初めてのワインだよ。飲んでみて」
デニスがワインをグラスに注ぎ、祖父に手渡した。祖父はそのグラスをくるっと軽く回し、ワインを躍らせてから、そっと一口口に含んだ。
少し酸っぱくて、あまり良い出来ではなかった。

「どう?美味しい?」デニスが問いかけた。
祖父はワインの酸っぱさに少し顔をしかめていたが、孫のデニスがワインを造ってくれたことが本当に嬉しかった。

ワインについて何か言おうとしたが、胸にこみあげてくるものがあり、言葉が出なかった。
何も言えずにいた祖父の目から1粒の涙が溢れ出した。
そして、その涙がワイングラスの中に、そっと落ちた。

その瞬間、グラスが眩い光に包まれた。
ワインの表面に光の波紋がゆっくりと広がった。まるで魔法をかけたように、そのワインが輝いた。

祖父は、目の前の出来事に驚いていたが、デニスは何も気づいていないようだった。


祖父は、不思議に思いながらも、気のせいだろうと思い、そのワインを再び口にした。

そのワインは、祖父の人生で、最高のワインとなった。

祖父の目から、涙がとめどなく流れた。



-Fine-

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